アンチテーゼを振りかざせ
「……そんな素敵なものじゃ無いです。」
「え、そうなの?」
「割と失礼なこと言われましたし。」
だって、"清楚つくりこんでる"なんて、
好意を抱いてる人間に、わざわざ言ったりしない。
きっと、干物女に気づいたあの男の
気まぐれだったのだろうけど。
「……でも。
声、かけてくれて良かったと、思います。」
ぽそっと溢れ終えた言葉に、自分でも驚いてしまった。
本心。
だけど、人に聞かせることでは全く無かった。
…なんで、私、別にまだ全然、酔っても無いのに。
全身が火照る感覚は何も間違いでは無くて、逆効果かもしれないけど再びジョッキでビールを煽った。
お店の賑わいで聴こえていなければ良いなと若干の期待を込めてチラリ前方を伺うと、ちひろさんと亜子さんがこちらを凝視していた。…期待、崩れた。
「……えー、これは可愛いわ。
照れ隠しにビール飲むのが、ルックスに似合わなくて更に良し。」
「でしょう、紬さんは可愛いんです。」
「……」
勝手な見解を述べる2人を無視して、奈良漬クリームチーズを直ぐ側にいた店員さんに注文した。
私がずっと一人で頑なに目指してきた姿とは違う、
おっさん全開の部分を"可愛い"と言う人達。
例えばこんな話したら「だからずっと言ってんじゃん」とあの男が勝ち誇って笑ってきそうな気がして、ふ、と表情なんて簡単に緩む。
「あ、絶対今、彼氏のこと考えた。」
「紬さん可愛い。」
「……」