アンチテーゼを振りかざせ
「いや。なんでそんな驚いてんの。」
「流石によく分からない。
コンビニの干物女って気づいて面白がってたんじゃないの…?」
「え?失礼なんだけど。」
不服そうな梓雪は、そのまま私の頬を軽くつねる。
頭に疑問符ばかり浮かんで、難しい表情を意図せず作ってしまった私に一拍置いて、口を開いた。
「……店員にちゃんと丁寧に
いちいち挨拶するとこが好き。」
「……え?」
「てきぱきお会計の用意しつつ、商品のバーコード
こっちに向けてくる気遣いも好き。」
「………なに、それ。」
見上げた男の三白眼が、あまりに優しく細まる。
何、それは、なんの話。
うまく言葉が出なくて、ただ瞬きだけを重ねた。
「つか普通に全部可愛くて、
どタイプだったから話しかけましたけど。」
いつもの軽口。
それがどれだけ私の心に影響を与えてしまうのか、
この男は分かっているのだろうか。
「…そんなの、聞いたこと無いし。」
「うん、だって言ってないし。」
言う気も無かったし、と笑ってつねっていた指をそのまま私の頬に添わせた。
私の周りには、ここ一年で随分と"変な人"が増えた。
ずっと一人で頑なに目指してきた姿とは違う、
おっさん全開の部分を"可愛い"と言う人達。
それを受け止めて私が笑える理由は、
どう考えてもこの男の存在が大き過ぎる。