アンチテーゼを振りかざせ
「…結構、寒い。」
かぽかぽと、出勤する時のヒールでは絶対鳴らせることのない音を奏でる黒のサンダルで歩いていると、冷たさを充分に含んだ風に吹かれた。
肩をすくめつつ小走りで向かうのは、徒歩2分くらいで到着できる夜闇の中で容赦無く光る建物。
入り口の自動ドアが開くと、軽快な音と「…いらっしゃいませー」なんて覇気のない店員の声が聞こえた。
そのまま一目散に目指すのは、お酒のコーナー。
扉を開けてふわっと冷気を感じつつ、迷うことなく取り出したのは、CMでも"切れ味が良い"が評判の、可愛さは皆無の缶ビール1本。
そのまま流れるように、近くに陳列されているおつまみコーナーでサキイカをひょいっと掴んでレジへと向かった。
毎日、では無いけど。
だけど、特に金曜日はついつい、家飲みをして自分にご褒美を与えたくなる。
ストックをしておくのではなくて、深夜のコンビニにわざわざ出向いて買い出しをする、というのがまたなんとも背徳感に近いようなものがあって、気に入っていた。
「いらっしゃいませ。」
レジに大好きなその2つを置けば、向かい合って立っている店員が慣れた手つきでバーコードを読み取っていく。
「レジ袋ご利用ですか。」
「要らないです。」
「ポイントカードお持ちですか。」
「持ってます。お願いします。」
「___相変わらず色気の無いラインナップですね。」
「あ、Suicaでお願いし……、」
いつもの、交わされ尽くした会話の流れは熟知していると思っていた。
"お支払い方法は?"
そう聞かれると思ってスマホを用意していた私に向かって投げられた言葉。
「……は?」
思わず驚いて、対面している店員を見やると
「この間はどーも。」
「っ、」
"_____清楚つくりこむの、やめたの?"
白に近いアッシュの髪の三白眼男が、そう言って笑っていた。