アンチテーゼを振りかざせ
そして。
「あんた、面倒。」
男は、穏やかな声でそう失礼な感想を告げてくる。
"面倒"だというその言葉はあの時、ビール片手に居酒屋でも言われた。
キ、と睨みつけると、溜息を吐いて私を見下ろす三白眼の中に街灯から取り入れた微かな光を見た。
「…俺だったら絶対、そんなことしない。
ライバルなんてどーでも良いし、最後の最後まで蹴落とそうとする。」
「…性格、悪。」
「うん。でも普通の感情でしょ。」
「?」
「…あんたは別に、“偽善者“とかじゃ無いよ。」
「……、」
「大体、偽善者ならそんな風に自分が損になるような協力したりしないから。
結局、恋の成就に貢献して、何してんの。」
「…うるさい。」
"…偽善者、なのかな。"
あの時の小さな小さな、壊れそうな独り言。
まさか、聞こえていたとは思わなかった。
「…仕事で、枡川さんに感謝してるのは本当だし。」
未だ揺れる視界の中で、するりと漏れた言葉は全然意図していない。だけど、止まらない。
なんでこんなよく分かんない男に、
私はこんな話をしてるのだろう。
「瀬尾さんだって、アドバイザーとしても、どれだけうちのために頑張ってくれてるか、分かってるから、」
あの2人のために、何かしたかった。
それは、嘘じゃ無い。
もう早くくっついてよ、そう思ったのも嘘じゃ無い。
______だけど。
「…私は、まだ、おめでとうは言えない。」
枡川さんと飲んだ時、彼女はもしかしたら私にちゃんと瀬尾さんとのことを報告しようとしてくれていたのかもしれない。
だけど、私はそれを読み取って、避けた。