アンチテーゼを振りかざせ
These02.
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あれから、数週間。
私は変わらず家に帰った後は当然干物化して、最寄りのコンビニへそこそこの頻度で深夜の買い出しに出かける。
夜中を中心にシフトに入っているらしいあの男と遭遇することも、勿論あって。
「ほーしろサン。」
「……。」
休憩が被る時は、自分用の炭酸飲料だけでなく、勝手に私の缶ビールとサキイカをひょい、と奪ってさっさとレジへ向かう男に焦っても、どこ吹く風で。
「…こういうの、やめて。」
「気にしなくて良いけど。
"話し相手になってくれてありがとう"代だし。」
私の大好きなそのセットに、無茶苦茶な命名をしてそう言う男に振り回されている自覚はある。
コンビニと隣のビルとの間の薄暗い路地。
時間にしたら、たった数十分。
お金を渡そうとしても受け取らない男に諦めて缶ビールを一口飲んでいると、すぐ隣からの視線に気づいた。
「……何。」
「いや、こんなに色気無くせるもんかと思って。」
そう問えば楽しそうな声で、失礼な感想を告げられる。
「喧嘩売ってんの?」
メガネ越しに睨んでも、微かに遊ばせるように空気を揺らす男は、全く堪えていない。
そのまま腰を折って私の顔を近い距離で覗き込む瞬間、白に近いアッシュがふわりと揺れる。
「んーでも、顔は清楚つくりこんでる時とそんな変わんないな。」
「……喧嘩売ってんの?」
「どっちにしろ怒るのかよ。」
観察結果に不服そうにそう言えば、男は吹き出して笑う。
___時間にしたら、本当に、たった数十分。
「ほーしろサンさ、社会人何年目?」
「……2年目だけど。」
「ふーん。大変そう。」
他人事のようにそう漏らす男をなんとなく見つめる。
居酒屋とコンビニのアルバイトを掛け持ちしているこの男。
歳は私とそう変わらなく見えるけど、一体、
「…あ、俺に興味出てきた?」
そこまで密かに見つめて考えていた思考をお見通しかのように、口角を上げて伝えてくる言葉を、無言でビールを仰ぐことで否定した。
「まあ、俺はただのフリーターだけど。」
「…ふーん。」
それだけ?と、特に深掘りしようとしない私に、男はただ三白眼を細めていた。
この時間は、この男は、なんなのか。
特に深い話をするわけでも無い缶ビール1本分の時間は、違和感を残しつつも、それでもしっかりと、私の中で不可思議に刻まれていた。