アンチテーゼを振りかざせ
「…保城。」
「え。」
ほむさんが帰ってから暫く。
私はやっと運営委員会の方の仕事へ手を付けられていた。
リーフレット第二弾も、作成の時期が迫っている。
初回はコンペの時からの枡川さん達との仕事についてまとめていたけど、今回からはいよいよ新しいオフィスの紹介がメインになると思う。
どういう部分を、まず伝えるべきか。
新オフィスのラフ画を見つめて集中していたから、突然名前を呼びかけられた時は大袈裟に反応してしまった。
「…お、お疲れ様です。」
「凄い集中してたけど。なんか煮詰まってる?」
爽やかに笑う香月さんは、そのまま私のデスクへ近づく。
「いえ!!特には。」
「…もしかしてリニューアルのことやってくれてた?」
慌てて否定して画面を閉じようとしたけれど、タッチの差でそれを確認した彼は少し意外そうな声で尋ねてきた。
「……通常業務が終わらないと、
なかなか時間取れないので。」
「そっか。」
渋々、そう自白する。
何故だかこの人に、こんな時間までリニューアル関係の仕事に時間を充てていたとバレてしまうのは気恥ずかしい。
だけど「少しでも、やりたい。」時間を惜しんでそう思える仕事に出逢ったことが無かったから。
「遅くまで、ありがとう。」
ふわりと柔らかく笑う彼は、そう噛み締めるようにお礼を告げた。
「……いえ。」
「でも、こんな時間までの残業は感心しないな。
保城、飯は?」
「…え?あー、まだです。」
「よし。行こう。」
「へ?」
「早く。何ボーッとしてんの。ほら片付けして。」
「……。」
この課長は、絶対にこの物腰の柔らかさの裏に色々隠している。
改めてそう感じた私は、彼の強引な提案に従順に頷いた。