アンチテーゼを振りかざせ





「…え、広報宣伝部の方々とですか?」

「そう。元々今日飲むつもりで。

俺も仕事残ってたから、先に店に行ってもらってる。」


お店は決まっていると言った香月さんの後ろを着いて行くと、軽くそう告げられた。


簡単に部下と2人でご飯に行ったりしないところも好印象というか、きっとその辺りの区切りがしっかりしてるんだろうなと、ぼんやり思う。


「保城さん!今日空いてる〜!?」なんて平然とたまに尋ねてくるうちの課長に聞かせてやりたい。


「……部下2人とも、良い奴らだから色々話聞くと良いよ。」

足を進める中で振り返ってそう笑う彼は、なんだか嬉しそうで。

「…香月さん、楽しそうですね。」

「今から行くとこ、ずっと行きたくてさ。」

「…そうなんですか。」



足取りを軽くして、そう教えてくれる彼は子供のようで少し笑いながら受け止めたのが数十分前。



◻︎


「……ここ!(なかば)達の行きつけらしくて、ずっと来たかったんだよね。」

「………。」


央、というのは瀬尾さんのことで、香月さんが瀬尾さんの大学の先輩だと言うのはプロジェクトを通して知った。

でも今は、そんなことはどうだって良くて。



目的の店の最寄り駅を告げられた時に、まず最初の違和感。


そこから意気揚々と歩く香月さんの後ろを嫌な予感と共について行くうちに生まれた、次の違和感。




_____私、この道を知ってる。




そして嬉々として指を指して「此処!」と教えられたのは、外観から考えてもお世辞にも綺麗だとは言えない、こじんまりとした個人経営の居酒屋。


あの気怠い彼とも、うちのリニューアルプロジェクトのリーダーであるいつも真っ直ぐな彼女とも、来たことがある場所。



「なんで!!!」

「…え、だめだった?」


思わずキャラも忘れて全力で突っ込んでしまうくらいに予想外の展開に項垂れた。


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