アンチテーゼを振りかざせ
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「…なーーにが悲しくて私は、そんなライバルとこんな仲良く飲みに行ってるんでしょうね。」
「………あ!次、何飲まれますか!?」
「ヒレ酒で。」
「え、あるかな……」
私の要望に、真っ赤な火照った顔でメニューを必死に見つめる彼女を見て1つ溜息を零す。
「絶対無いでしょ。」
「…無いです…。」
「ビールで良いです、枡川さんは?」
「え!ビールに戻るんですか…!私はハイボールにします。」
そしてそのまま「すいませーん」と店員さんを呼ぶテーブル向かいに座る彼女を再び見やる。
整った顔、それは間違いない。
なんならちょっとクールで涼しい顔立ちに近い。
艶やかな黒髪を後ろで1つに結んで、品のあるグレーのスーツスタイルの彼女は一見少し冷たそうに見えるかも。
「…あ!!保城さん、塩辛もおかわりしますか?」
「え、おかわりとか普通します?」
「へ?しません?」
でも、きょとん、とした二重のくっきりした瞳でこちらを見つめる彼女は顔が真っ赤。
「私こんな小鉢だとぺろっといつも食べてしまうんですよね。」
そして、そう言って少し照れながら見せる屈託のない笑顔は、どう考えてもギャップでしかなくて破壊力が抜群。
「……私、たこわさも食べたいです。」
「た、食べましょう!!!」
私の冷めたトーンの提案にぱあっと顔を明るくして再び店員さんを呼ぶこの彼女こそ。
_____私が、恋に負けた女だ。