アンチテーゼを振りかざせ
◻︎
「保城さん、何飲む?」
「…カルピスサワーでお願いします。」
ほかほかのおしぼりで手を温めつつ、目の前で尋ねてくれる先輩に微笑んでそう伝える。
「似合うね保城さん。
すいません、カルピスサワー1つ!」
それをそのまま、
テーブルの側で立つ店員に告げてくれたのに、
「……え、本気ですか?」
「ん?」
「いえ、お持ちしまーす。」
先輩の発言を聞き返し、その後は全くやる気もなさそうにメニューを書き取った店員は、そう言う。
早 く 去 れ !
そう顔にありありと出しながらにっこり笑顔をつくっても、視線が交わった三白眼は愉快に細まるだけだ。
手書きのメニューが壁の至る所に無造作に貼ってある、狭い空間の居酒屋は、満員御礼状態で。
香月さんと店内へ足を踏み入れた瞬間、彼の部下だと言う2人が私達を見つけてテーブル席から手を振ってくれているのを確認した。
そして。
___「"今日は"、カルピスサワーじゃ無いんだ?」
まさか、そんな上手くいつもシフトが被ることもないか。
前に受けた発言を思い出しつつ、店内を軽く見渡して、見かけない姿に安堵の息を漏らそうとした時。
「____いらっしゃいませ。」
そう後ろから告げられて、古びたお店の照明に無遠慮に照らされたアッシュの髪で近づく笑顔の店員に、頭痛を伴って貧血を起こしそうになった。
もはや起こしたかった。
黒シャツの胸元には、手書きで
"くみ"
と、やけに可愛らしいフォントで書かれたネームプレートを引っ提げていた。