アンチテーゼを振りかざせ
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週終わりの、金曜日。
本社ビルのエントランスゲートを出られたのは、開放感のある大きなガラスの窓から確認できた外が、どっぷりと夜の景色に変わってしまっていた頃だった。
「…20時半か。」
腕時計を確認した私はそう呟く。
折角の金曜日だと言うのに、定時の17時半なんてとっくに通り過ぎている。
明日の土曜、このビルでは電気設備点検のための法定停電がある。
一斉に電気を落とすので、前日である今日はフロアで使用している冷蔵庫の中身など、細かく様々な部分を確認する必要があった。
結局は業者との窓口になる総務部の中で、案の定作業を押しつけられた結果が、この時間での退勤だ。
ほむさんも途中まで手伝ってくれたけど、今日は前からお孫さん達と夜ご飯を食べに行く日だと知っていたので、先に帰ってもらった。
「つかれた。」
ぽそっと吐き出した瞬間から、より一層身体全身に疲労感が漂う。
このまま家に帰って、夜ご飯用意するなんてもうそんなことは絶対出来ない。
でもなんか、さすがに美味しい物を食べたいし、
「……ビール飲みたい。」
"会社での私"らしからぬ独り言に笑って、バッグから定期入れを出そうとした時、それに引っ付いてひらりと舞いながら、地面へ落ちた紙に気が付いた。
"生ビール一杯無料券"
香月さん達と行った時に、揶揄いを含んだ笑みであの店員に渡されたクーポンだとすぐに気づく。
自分の最寄駅へと向かっていた筈の足の歩みが自然と止まる。
あの居酒屋なら、私の会社からはそれなりに距離があるから誰かと遭遇するリスクはあまり無い。
そこまでを考えて、この間香月さんに連れられた方向へ向きを変える。
「…ビール、無料だし。」
そして、自分の行動の理由づけをするかのようにそう漏らした。