アンチテーゼを振りかざせ
「そういう部分知られたら、嫌われると思ってんの?」
「……、」
鋭い声と視線が身体を貫く感覚に、言葉はカラカラに乾いてしまう。
だって、"普通はそう"でしょう?
そんなの、誰も喜ばないに決まってる。
"……"同期の枠"からなんとか抜け出さないとって毎日思って、焦ってます。
___瀬尾が、好き、ですから。"
"この店に来たら、梅水晶と、たこわさと、塩辛。
そればっかり頼む女が居るけど。
俺は、そいつと、あの席に座ってる時が1番好きかもしれない。"
あんなに真正面から、ヘタレ同士だけど向き合える素直な恋は、私にはきっとやって来ない。
あの2人の回りくどい恋路を思い出して自嘲的に笑うと、
「まあ、俺は良かったけど。」
「…え?」
意図していない感想に、疑問符が浮かぶ。
「あんたが生ビールとサキイカで喜んでるとこ、あんまり他に知られたく無い。」
そして続けられた言葉は、もっと意図が分からない。
「……な、んで…?」
「勿体ないから。」
「、」
"サワー飲んで清楚つくりこんでる姿しか知らないあんたには紬は勿体無いし、渡せない。"
さっき、椋にも同じことを伝えていた。
「……馬鹿にしてんの?」
「え、なんで。本気だけど。」
本気で、そんなこと言う人間いるの?
そんな人に、出会ったことは無い。
だけど、この男はそういえばもう最初から私の干物姿を知っている。
こんな出会い方は、今までに経験したことが無い。
どうしてか視界がぼやける感覚に気が付きたくなくて、必死に瞬きをして誤魔化す様子を、目の前でじ、と男は凝視している。