アンチテーゼを振りかざせ
These03.
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惑わされてる場合では、無い。
「え?」
「婚活。しよ、紬。」
「……どうしたの急に。」
平日休日問わず、いつも人気のスタバでは店内の席を取るのもなかなかに困難。
運良く小さめのテーブルが1つ空いていたので、そこに座った私は、急にそんな宣言を受ける。
その主は、大学時代からの友人である杏。
長い睫毛に囲われた瞳と綺麗な鼻筋が印象的で、とても大人っぽいのに、手に持つのは生クリーム増量のやけに甘ったるそうなフラペチーノ。
スタバの新作は必ず手を出し、旬のドラマに出てる俳優はチェックしてハマって割とすぐに熱が冷めるミーハー心も持っていたりして、意外性がある。
「まあ紬は、もしかしたら困ってないかもしれないけど。大学の時から割とスムーズに彼氏いつも出来てたし。」
スムーズ。
側から見たら、そうだったのかもしれない。
いつも笑顔を心がけて、外見に気を使う努力を続けて、そういう自分を可愛いと言ってくれる人を好きになってきた。
「でも、社会人なんて出会いも少ないしさ。」
器用に太めのストローを扱ってずず、と甘ったるいそれを吸い込む杏は、そう確かめるように言って溜息を吐いた。
「…うん。」
何故だか頭の奥で、やたらと目に焼き付くアッシュがチラついた気がして、掻き消すように彼女の発言に頷く。
「24じゃん、うちら。
今から誰かと出会って、そこから付き合ったりして、その後のこととか考えたりしてたら…え、思ったより時間無いわってこの間思ってさ。」
リアル過ぎて死んだ、と項垂れる杏に私も力無く笑う。
私達は、社会人歴で言えばまだまだ下っ端の部類になるのだろうけど、恋愛のフィールドで考えたら、全くそうでは無い。
「…婚活、やってみようかな。」
「まじ?
じゃあちょっととりあえずお試しで街コン行ってみよ?」
「分かった。」
わーい、と笑ってスマホで何やら検索を始める杏の行動力は、割と羨ましい。
____"紬、やっぱ隙があるな。"
そうだ。
惑わされてる場合では、無い。
いつも気まぐれそうな金髪男に
揶揄われただけだって流石の私も分かっている。
あんな奴にき、キスされた私は、本当に油断してた。
「うん。やる。」
再度確かめるように言った私に「気合入ってるじゃん」と杏が笑っていた。
紙製のカップに入ったコーヒーを飲むと、それがやたらと熱いまま喉を通って心が少しヒリついた気がした。