アンチテーゼを振りかざせ
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「……紬、大丈夫…?」
「…うん。」
それから1週間後、行動力が凄まじい杏から「今週の土曜日、街コン申し込んだ」と事後報告で言われた時は驚いたけど。
意を決して訪れたそれが終わった後、私は相当な疲労感に全身をやられている。
「さすが、モテモテだったね。」
「…あれは、その表現で合ってるの?」
「た、たぶん?」
広めのレストランを貸し切って行われた街コンは、立食形式だった。
最初にプロフィールカードを書いて、テンションの高い司会者にフリータイムを告げられ、一斉に動き始める人達にたじろいたのも束の間。
"お話しませんか!?"
何故か私へと一直線にやって来た男性2人に拘束され、プロフィールを永遠と語られていたら、なんと終了時刻になっていた。
本当に、なんの時間だったのだろう。
表情筋も張り付いてしまってる気がする。
二次会行きましょう、と言われたのを丁重にお断りしてなんとか開放された今、
「…ビール飲みたい。」
「出た。」
心から漏れ出した本音にけらけらと笑う杏と、休日の活気あふれた人混みの流れの中で、駅へ向かって歩いている。
「街コンで飲めば良かったのに。」
「最初からビール持ってる女、嫌でしょ。」
「プロフィールカードも、趣味に"晩酌"って書かなかったんでしょ、どうせ。」
「書けるわけないじゃん…」
溜息を漏らしてそう言う私に、やはり杏は笑っていた。