アンチテーゼを振りかざせ
「杏は、どうだったの。」
勿論初めは杏と一緒に行動するつもりだったけど。
バイキング形式になっている会場で、並ぶデザートに目を輝かせていた彼女は、出だしからすごい量のそれらを自分の皿に取り分けていた。
その姿に笑って話しかけてくる男性が居て、なんだかとても2人が良い雰囲気になっていたので私は杏の側をそっと離れた。
…その後、私に待ち受けた展開は、散々だったけど。
「一応、LINEは交換したよ。すごく甘党らしくて、またカフェでも行きましょうって。
紬、気付いたら居ないからびっくりした。」
恥ずかしいのか、小声で報告してくる杏は微笑ましい。
「良かった。邪魔したら悪いし。」
「…紬もさ。
全部を認めて受け入れてくれる人、居ると思うんだけどなあ。その、おっさんの部分も含めて?」
「……居ないよ、そんな人。」
人に自分を曝け出すのは、怖い。
"…え!?紬って俺のこと好きなの?惜しいなあ。"
惜しいって言われるのは、もう嫌だから。
眉を下げてすぐに否定を告げれば、杏は「そうかなあ。」と口を尖らせていた。