私とピン球
ざわざわと、気持ちよくも、気持ち悪くもない、雑音が辺りを埋め尽くしている。
「ねー、今日転校生来るらしいよー」
「マジ!?イケメンかなぁ」
そんな会話をよそに、頬杖をつき、窓の向こう側の、紅く染め上がった木々を特に意味も無く、ぼうっと見ていた。
ブワッ、と強めの風が木の葉を巻き上げた。
青く澄んだ空に散りばめられた紅がとても映えていた。
――あなただったら、簡単に吹き飛んでいたでしょうね。
「食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋……」
いつの間にか私の隣に来ていた、親友の桃がぶつぶつと、不気味に何かを呟き始めた。
うわっ、嫌な予感。
「恋愛の秋ー!」
やっぱり……。
「ねーね、《私》はさ、好きな人とかいないの?」
好きな、人……。
ズキン、と心臓が嫌な音をたてた。
「えー?別にいないよー?私、恋愛とか、興味無いし」
「も〜、《私》ってばずっとそれなんだから〜。そんなんだからいつまでも彼氏ができないんだよ?」
「別にいいよ、彼氏なんか。それより、桃は最近どーなのよ」
上手い 具合に話を逸らせられたと思われたが、勘の良い桃は気づいたようだ。
「今は、あたしより《私》の話!」
「ね、流石に中学生になったなら、一人くらいいるでしょ?好きだった人くらい!過去でもいいから、教えてよ〜!」
「そんな人……いないって」
喉に言葉が引掛り、詰まってしまった。
「あ〜いるんだ〜、教えなさいっ!」
「だから、いないって!」
全力で嘘の否定をした。
「このラケット取っちゃうよ?」
ニヤリ、と意地悪で、妖艶な笑みを貼り付けながら、私の卓球ラケットを器用に回した。
「わぁ、ラバー結構良いの使ってんじゃん!」
「桃!!」
私がそれをすっごい大切にしてること、知ってるでしょ!
「ははは〜、返して欲しくば話すのだ〜!」
……何も知らない癖に。
「……話しても、友達やめない?」
「もちろん!」
「絶対だよ?」
「何よ、何かやましいことでもあるの?」
「ないけど……」
「ほら、ちゃちゃっと話してしまいなさい!」
このこと、絶対話さないって決めてたのに……。
桃に甘い自分を憎んだ。
「あれは、――」