私とピン球

ざわざわと、気持ちよくも、気持ち悪くもない、雑音が辺りを埋め尽くしている。

「ねー、今日転校生来るらしいよー」 

「マジ!?イケメンかなぁ」

そんな会話をよそに、頬杖をつき、窓の向こう側の、紅く染め上がった木々を特に意味も無く、ぼうっと見ていた。

ブワッ、と強めの風が木の葉を巻き上げた。

青く澄んだ空に散りばめられた紅がとても映えていた。
 
――あなただったら、簡単に吹き飛んでいたでしょうね。

「食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋……」

いつの間にか私の隣に来ていた、親友の(もも)がぶつぶつと、不気味に何かを呟き始めた。

うわっ、嫌な予感。  

「恋愛の秋ー!」

やっぱり……。

「ねーね、《私》はさ、好きな人とかいないの?」

好きな、人……。

ズキン、と心臓が嫌な音をたてた。

「えー?別にいないよー?私、恋愛とか、興味無いし」

「も〜、《私》ってばずっとそれなんだから〜。そんなんだからいつまでも彼氏ができないんだよ?」

「別にいいよ、彼氏なんか。それより、桃は最近どーなのよ」

上手い 具合に話を逸らせられたと思われたが、勘の良い桃は気づいたようだ。

「今は、あたしより《私》の話!」

「ね、流石に中学生になったなら、一人くらいいるでしょ?好きだった人くらい!過去でもいいから、教えてよ〜!」

「そんな人……いないって」

喉に言葉が引掛り、詰まってしまった。

「あ〜いるんだ〜、教えなさいっ!」

「だから、いないって!」

全力で嘘の否定をした。

「このラケット取っちゃうよ?」

ニヤリ、と意地悪で、妖艶な笑みを貼り付けながら、私の卓球ラケットを器用に回した。

「わぁ、ラバー結構良いの使ってんじゃん!」

「桃!!」   

私がそれをすっごい大切にしてること、知ってるでしょ! 

「ははは〜、返して欲しくば話すのだ〜!」

……何も知らない癖に。

「……話しても、友達やめない?」

「もちろん!」

「絶対だよ?」

「何よ、何かやましいことでもあるの?」

「ないけど……」
  
「ほら、ちゃちゃっと話してしまいなさい!」
  
このこと、絶対話さないって決めてたのに……。

桃に甘い自分を憎んだ。
 
「あれは、――」
< 3 / 14 >

この作品をシェア

pagetop