私とピン球
あれは、5月のこと。

中学生から始まるもの。

色々なものが生まれる、所謂、青春の場所。

部活。

特に好きなものも、打ち込んでいたものも無かった私は桃と同じ卓球部に所属した。

だけど、コートにピン球を入れることすらままならなくて。
 
ピン球が思い通りに動いてくれなくて。

私に逆らってばっかりで。
 
すごく、不器用な自分に苛立ちを感じた。

私が、簡単なことに手を煩わせている間に皆、どんどん上手になっていく。

私だけ、置いて行かれて。

皆との技術の差が凄かった。

初めのうちは、皆ああしたら、こうしたら、とアドバイスをくれた。

だけどいつまでも改善されてないから、皆私を見捨てた。

唯一話しかけてくれるのは、桃。

桃だけは、名前の通り、桃のような、優しく、柔らかな笑顔で私にコツを教えてくれた。

だから、別に不満とかは感じなかった。
 
問題は、桃がいないとき。

私はいつも一人、壁にピン球をぶつけていた。

卓球台には入れなかった。

そんなある時、一人で壁打ちをしていたら、低く、甘やかな声が私を呼んだ。

桜木(さくらぎ)先輩……?」

私が顔を上げないと、目が合わないような身長。
 
私を見下ろす時に顔に影がかかり、何だか大人な雰囲気だった。

いつも艶があり、それでいて滑らかな髪がラケットを振る度に揺れ、心に釘を刺されたように印象に残る。
   
顔は……特別イケメンでは無かったけど、整っているほうだとは思う。

いつも白い歯が光り、細められた目からは陽光のような温かい光が放たれていた。

ここまで言えば分かるだろう?

彼は、学校でナンバー1、2を争うくらいのモテ男なのだ。

「お前、いっつも一人で壁打ちしてるよな。教えてやるから、台入れよ」

言われるがまま、ピン球を叩いた。
 
だけど、桜木先輩のピン球は重くて。

ラケットに当たっただけで、手が痺れそうで、あちらこちら、遠くに飛ばしてしまう


結局、先輩を走り回させただけだった。

「す、すみません……」

恥ずかしさと申し訳なさで、穴があったら入りたい気分だった。

「いいよ。それよりさ、《私》、素振りやってみてよ」

びゅん、と風を切り裂く音が耳許でした。

「うーん、もう少し腰を回して」

「こう、ですか?」

「うーん……」
< 4 / 14 >

この作品をシェア

pagetop