私とピン球
「《私》、腰だぞ。無理に打とうとするんじゃないぞ。」

「はい!ありがとうございます!桜木先輩!」
 
今日は、部内のランキングを決める、大切な試合。

いつもより、気合が入っている。

キュウスケは、何の感情も読み取れない表情で、私を見ていた。

――頑張るよ、キュウスケ。

練習に付き合ってくれて、ありがとね。

体育館を火照らせるライトの光の中に、ピン球が打ち上げられた。

***

カコン

キュウスケが、初めて硬い笑い声をあげた。

「か、勝った……」

11、という文字を見て、しばらく放心状態に陥って、やっと出た言葉だった。

「やったじゃん!《私》!」

「ありがと!桃!」

私と桃は、二人で半泣きの状態でぴょんぴょん、と跳ねた。

「良かったじゃねぇか、《私》」

「桜木先輩!ありがとうございます!」

「練習の成果、あったじゃん」

「はい!ご指導ありが、と、ございましたっ」
 
嬉しさで作られた涙で、声が途切れた。

「おいおい、泣くなよ」

「す、すみませんっ、先輩も頑張ってくださいね!」

涙で乱れてるであろう笑顔を先輩に向けた。

「おう、もちろんだ」

先輩は大きくて、硬そうな背中を私に向けると、ポツリと漏らした。

「もし俺がランキング1位だったら、そのあと体育館に残っとけ」

……え?

桜木先輩は私に聞く暇も与えず、試合会場に向かっていった。

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