この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
「さ、お互い仕事に帰ろうぜ。」
浩太の声で、静は現実に引き戻された。輔もハッとしている。
「ボク、銀座の店に帰るからここで…。」
「静は?送ろうか?」
「大丈夫、チョッと寄り道して帰るから。」
「あそこか?」
「うん…。」
「じゃあな。気をつけて。」
「またね。浩太、輔くん。」
手を振って別れ、三人はそれぞれの目的地に向かって歩き出した。
だが、輔はすぐに方向を変えて、浩太を追いかけてきた。
「浩太!」
「わっ!驚かすなよ。何だ?忘れ物か?」
「違うよ、静さんは何処行ったの?気になるじゃん、あそこって。」
「ヒ・ミ・ツ。」
「え~、ズルいよ。僕にも教えて!」
「あのな、お姫さまには秘密が付きものなんだよ。詮索はナシ。」
「そんなあ…。」
「あいつには、あいつ自身でいられる時間が必要なのさ。」
「なんか…浩太だけ知ってて悔しい…。」
「そのうち、静から教えてくれるさ。」
「そのうちかあ…。」
「そうそう。さ、早く帰れよ。」
「了解。浩太こそ、何かあったら言えよ。」
「あったらな。じゃ。」
浩太は軽く手を振って、地下鉄の駅に歩いて行った。
輔は知っている、浩太が静に思いを寄せている事を。
それが、静に届いていない事を…。だから、今日の話にも傷ついているだろう。
形だけなら浩太でもいい筈だ。だが仮とは言え、静の初恋の君が相手だ。
「何かあったら…って、もうあったじゃん。」
輔は、静や浩太から話してくれるのを、今は待つしかなかった。