この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
祖母の葬儀の後、静はカフェ・BLUEに挨拶に行った。
長く休ませてもらったし、今後の相談もしたかったのだ。
マスターの青木は、やつれた静の顔を見て
カウンター奥にピンで留めていた絵葉書をわざわざ外して手渡した。
長くピンで留めていたのだろう、ピン穴の部分が茶色く色褪せている。
「静ちゃん、君のお父さんからの絵葉書だ。」
「ええっ?パパの?…どうして青木さんが…。」
「黙っていてゴメン。僕は、きみのお父さんの後輩なんだ。」
「パパの…後輩?」
「同じ美大でデザインの勉強をしたんだよ。」
「どうして…教えてくれなかったんですか?」
「君の名前が小松原って聞いた時、もしかしたらと思ったんだけど…。」
「マスター…。」
「あの頃の君には、前を向いてもらいたかったんだ。」
松子の稽古の厳しさに心が折れそうな日々だったが、ロスに逃げ帰る事は出来ない。
「僕としては、日本で生きる覚悟を決めて欲しかったからね。」
「そうだったんですか…。」
「でも、今は逆だよ。お祖母さんもお亡くなりになったし、
一度、日本を離れてロスへ帰ってみたらどうだろう。
ここに君やお父さんが住んでいた昔の住所が書いてある。」