この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
離れた場所から三人の様子を見ていた竜平は、
まさかと思いながら、ボブヘアの女性の後ろ姿を見つめていた。
その時、外人客が花の説明を求めたのか、英語で女性に声をかけた。
ボブヘアの女性が、にこやかに振り向いた。
静だ。
一年前とは別人の様だが、見間違えるはずがない。
会いたいと焦がれていた静がそこにいる。
「静…。」
思わず竜平は呟いた。その名を再び呼べるとは思ってもいなかった。
彼女を探さなかった訳では無い。
何度も何度も居場所を探そうとしたし、探しかけた事もあった。
せっかく自由になった静を自分に縛り付けてはいけないと思い留まったのだ。
『静!』
心の中で叫ぶ。胸が高鳴るとはこういう気持ちなのか。
遠くからの目線に気付いたのか、彼女もこちらを見た。
固まったように竜平を見ている。
竜平はゆっくり、花車の方へ歩いて行った。
観光客に花材の説明を終えた静も、竜平の方へ歩みだす。
「久しぶり、静…。」
静は困ったように首を傾げ、微笑んだ。
「今の私は、クリスティン・静・サトウです。以前の名前…
祖父母に引き取られる前の、アメリカの亡くなった母方の姓を名乗ってます。」
にっこりと笑いながら明るい声で言葉を続けた。
「ですから、初めましてってご挨拶させて下さい。」
「そうか…。」
その時、オルゴール時計が大きく鳴って真夜中の12時を告げた。
「初めまして、高瀬竜平です。」
竜平も静と同じように、笑顔で初対面の挨拶をした。
二人は、ただ見つめ合っていた。