この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~


静は学校から帰ってきたら、まず屋敷の門をくぐる前に深呼吸をする。
それから、ゆっくり屋敷の中に入るのが日課になった。

祖母の厳しい指導も、世話になっているのだから我慢しようと決めた。

もともと負けず嫌いな子だったから、ぐっと奥歯を噛みしめて耐えた。

我慢できない時は、誰にも見つからないように隠れて、声を殺して泣いていた。


その日も、静は厳しく祖母に叱られた。
和室での立ち居振る舞いを習っていたが、上手く襖が閉められなかったのだ。

お稽古が終わると、涙を堪えて屋敷の廊下を小走りした。
早く何処か人のいない所へ行きたかった。

慌てていたら、廊下を曲がったところで学生服姿の高校生とぶつかってしまった。

「あ、ごめんなさい!」
「いや、僕もぼんやり歩いてたから…ゴメン。」

これが高瀬竜平との出会いだった。
 
目に涙を溜めた静を見て、その高校生はおかっぱ頭をポンポンと軽く叩いた。

竜平とは、ただ、それだけの出会いだった。

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