この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
『優しいひとだな。』
幼い静は、その高校生の背が高いこと、手が大きいこと、
優しい目をしていることを胸に刻んだ。
高校生が昼間から屋敷にいるのが不思議だったが、
彼は祖父の友人のお孫さんらしい。
祖父の所に遊びに来ては、適当に時間を潰しているようだ。
何度か屋敷ですれ違う度、静が泣いていなくても頭をポンポンと撫でてくれた。
彼が静へ向けるまなざしと撫でてくれる手は、暖かかった。
静が中学生になった頃には、彼は大学生になっていた。
相変わらず、祖父の元へは気晴らしに訪れているようだ。
その頃の静は、ただ学校と家を往復する日々を送っていた。
やっと勉強について行けるようになったし、
祖母の指導する華道はますます高度なものになってきた。
両方を学ぶには時間が足りない。勉強と華道が静の生活の全てを占めていた。