この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
祖母からは古風な価値観を押し付けられて、厳しく育てられていた。
孫世代の事情など、松子は頓着しない。自分の考え方が全てなのだ。
学校の友達と話が合わない事も度々あった。
静は毎日、学校と家との往復だけで異性との出会いなど無いに等しい。
それでも男子と余計な接点を持つなと煩く言われ、辟易していた。
ただ、近所に住む前園浩太だけは、祖母同士が友人という事もあって
話してもいい男の子として認められていた。
男女交際に興味がある年頃とはいえ、静は幼馴染としか浩太を見ていない。
逆に、祖母に隠れて、憧れの竜平とは少し話すようになっていた。
庭の片隅や、誰も来ない縁側…。
彼と話す時だけは、ロスにいた頃の素のままの自分でいられた。
お喋りして、笑って…。楽しいひと時だった。
竜平との会話は、ひと言話す度に胸がドキドキした。
彼を見かけて、挨拶しようと側に近寄る時でさえ緊張した。
頬を染めながら竜平と話す静を、浩太は何度か見かけた。
祖母が友人の松子を訪ねる時、手土産が重い時などは
決まって浩太が荷物を持たされて小松原邸まで運んでいたからだ。
二人の姿を小松原の屋敷で見てきた浩太は、
静から婚約の話を聞いて、竜平を静の『初恋の君』と揶揄したのだ。
彼自身は二人を見かけた時、何となく面白くなかった記憶がある。
二人がこっそり隠れて話している様子はとても絵になっていたのだ。
幼いなりに、彼は竜平に嫉妬していたのだろう。