この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
ここは、副都心にある某写真スタジオ。
明るい照明の下で、何人ものスタッフがキビキビ動いている。
早朝から始まった撮影も、正午を回る頃には終了間近になっていた。
今日は、新春の婦人月刊誌で紹介する生け花の撮影が行われている。
ビルの外ではそろそろ紅葉が始まる頃だが、照明の下で咲き誇っているのは
大振りの備前焼きに生けられた、蕾がほころび始めたばかりの桜。
季節の先取りをする為とはいえ、見事な枝ぶりの桜だ。
「皆さんお疲れ様です。」
大手広告代理店で雑誌社を担当している前園浩太の声がした。
彼は、黒縁メガネをクイと持ち上げる仕草でスタジオに姿を見せた。
部屋にいた女の子達が急にざわめく。
彼に少しでも近付くチャンスとばかりに、アシスタントが
浩太から差し入れの入った紙袋をにこやかに受け取った。
「すみませ~ん。前園さん。」
「いつもありがとうございます~。」
「どういたしまして。」
そつなく、浩太は女の子達に向かってニッコリ笑う。
浩太はスラリとしているのに筋肉質な、体育会系男子だ。
なのに現場でのスタッフとの接し方がソフトだと、女性陣に受けがいい。