この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
「ステキです…。私、小さい頃ロスにいたので。」
「そうだったの。昔、友達が送ってくれた絵ハガキなんだ。」
「思い出の一枚ですね。」
マスターの青木と話したことがきっかけになり、いつしか学校の帰りに
祖父母には内緒で通う様になっていった。
厳しい現実を忘れて、束の間でも『静』自身に戻れる場所。
一人で切り盛りする青木に、バイトしてみないかと声を掛けられた時は
悩むことなく話を受けた。連日、学校と生け花の稽古で疲れてはいたが、
このカフェで過ごす時間は何物にも代え難かった。
それ以来、最低でも週に一度は顔を出している。
着換えてメガネをかければ誰も小松原静とは思わないだろう。
『隠れ家』と静は呼び、もし何かあった時の為に、
前園浩太にだけはカフェの場所を伝えていた。
彼も静の気持ちを尊重して、胸に留めてくれたのだ。
その思いやりは『友情』を超えていたが、
恋愛感情に疎い静は彼の思いに気付いてはいなかった。