この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~


静も、小松原家の管理を任されていた白河も
まさか恒一郎がそんな買い物をしたとはどうしても信じられなかった。

認知症を甘く見ていたのかもしれない。
二人して何日も金策を考えたがどうにもならない。

いつもはボンヤリしている恒一郎が、購入したお気に入りの棗や茶器
日本刀を愛でる時は嬉しそうに生き生きとした表情を見せる。
その姿を見た静は、もう何も言えない。

『お祖父さま…もう、違う世界に住んでいらっしゃるのだわ…。』

教育者らしい矍鑠(かくしゃく)とした恒一郎の面影はもはや無かった。

小松原家は贅沢な屋敷を所有しているとはいえ、裕福という訳でもない。
実務に疎い恒一郎と金銭感覚の欠如した松子に変わって、
京都の本家から東京支部事務長として派遣された白河清吾が
何とかやりくりして体面を維持してきたのだ。

購入した古美術を売っても、今度は買い叩かれて不足額が出る。
屋敷を担保にお金を借りても、静の収入では返済しきれない。

京都の家元本家に松子の夫の不祥事を知られる訳にもいかない…。
おまけに、二人の医療費と介護費用が新たに必要になってくる。

現状を維持しながら借金を返す方法…白河と静は途方に暮れた。


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