この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
しかし、晴信によると祖父母の態度は想像していた物とは全く違っていた。
晴信は、小さな女の子に言いきかせる様に優しく話してくれた。
『お二人とも、一人息子に捨てられたと思い込んでおられてねえ。
自分たちの育て方が間違ったていたんだと、反省ばかりしていましたよ。』
静には信じられなかった。
『一人息子の育て方を失敗した自分たちには孫を育てる資格は無い。
こんな年寄りが育てるのだから、あなたに申し訳ないって。
いつもおっしゃってましたよ。』
『ですが…迷いながらも、もう一度子育てをやり直すんだと、
あなたを一生懸命お育てたになったのです。
生きる力になるからと、生け花の技術や教養を身に付けさせてくれたでしょう。』
ゆっくりと静に語り掛ける晴信の言葉を、
ひとつひとつ聞き漏らさないよう、嚙みしめるように静は聞いていた。
『あなたが生きていくうえで必要な事を厳しく教えて下さったのですよ。
お二人は静さんには幸せになって欲しいと、いつも願っておられました。』
静は祖父母の気持ちを聞かされて、ただ驚くしかなかった。
自分は二人の気持ちが何もわかっていなかったのだ。
祖父母が静の将来を心配し、育ててくれた事実が嬉しかった。
静は幼い頃に抱いた淡い思いを封印しようと決めた。
祖父母の屋敷を守る為に縁談を受けるが、
竜平に、自分が秘かに想いを寄せていたなんて気付かれてはいけない。
これは、高瀬晴信がどう言葉を取り繕っても、借金返済の為の契約だ。
屋敷と私が担保になる。それで、小松原の体面は保てるし
京都の本家に借金を知られずにすむ。祖母も祖父が借金をした事を知らずにすむ。
頑なな静の心は、素直に晴信の提案を受け入れなかった。
全てが丸く収まる一番いい方法を、晴信が提示してくれたと思い込んでいた。