この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
何故か、屋敷の中で静の姿が良く目に留まるようになった。
それだけ竜平も学校をサボって小松原邸に入り浸っていた証拠だが…。
松子に歩き方から立ち姿まで叱られている姿も、
集中して花を生けている様子も、
近所の友人らしい男の子と喧嘩しながら帰宅してきた時も…。
静のどんな様子を見ても飽きることがなかった。
妹弟のいない竜平にとって、女の子との会話は新鮮だった。
日本語の意味や動植物の名前、日米の地名や観光地、子供向けのアニメ…
静の興味はありとあらゆる物に向かっていった。
それに答えてやるのが楽しくてたまらなかった。
ある日、静が尋ねてきた。
「高瀬さん、はしたないって、どういう意味ですか?」
「どうしてそんな言葉知ってるんだ?」
「あのね、お祖母さまに言われたの。高瀬さんに自分から話しかけるのは
やめなさいって。はしたないって。静、意味がよくわからないの。」
「ふうん。ばあさんの言うことなんか気にするなよ。
俺達二人に、周りの意見なんて関係ないさ。」
「…。」
静は何か腑に落ちない顔をしていたが、それ以上は聞いてこなかった。
竜平は、静との関係を誰にも邪魔されたくは無かった。
その気持ちが『独占欲』だと知ったのは随分後になってからだった。
だが、その言葉を知った頃から静は少しずつ無口になっていった。