この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
竜平の会社は、新宿にある自社ビル内にある。
出社して部長席に座ると、秘書の佐川綾子コーヒーを運んできた。
竜平は一応 総合商社タカセのヨーロッパ担当部長を任されている。
「おはようございます。高瀬部長。」
「おはよう。」
「少し濃い目のコーヒーですわ。どうぞ。」
「………。」
佐川綾子は、いつもひと言多い。
「今日のご予定ですが… 」
他の秘書より派手目な化粧の綾子は正式には秘書と呼べる存在ではない。
一応、契約社員という事になっている。
タカセの秘書室で、あまり重要な仕事は任せてもらっていないからだ。
竜平の母の友人の娘で、社会勉強という名目で働いている。
少々英語が出来る程度では、この会社でやっていけるはずもない。
それでも綾子が2年もこの職場にかじり付いているのは
竜平の妻の座を狙っているからに他ならない。
他の優秀な秘書課社員にとっては邪魔でしかないのだが、
竜平の母親のご機嫌を損ねたくないのか、誰もその件には触れられない。
もちろん竜平も迷惑していたが、母親と縁のある大病院の娘と聞いている。
彼女を選ぶ気は微塵もなかったが、邪険にする訳にもいかない。
無難に接していたのが悪かったのか、彼女の態度は目に余るようになってきた。
「来週の日曜日はスケジュールを空けといてくれ。」
「今のところ特にご予定はありませんが、何かございましたか?」
「プライベートだ。婚約者に会いに行く。」
「え?」
綾子の顔が引きつったように歪んだ。
竜平はこれくらいハッキリ言っておかなければと以前から思っていたのだ。
動揺する彼女を無視して、彼は仕事モードに頭を切り替えていた。