この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
竜平が、祖父が言い出した静との婚約の為に小松原邸を訪れたのは
小春日和の日曜日だった。
静は今日のような暗い色の着物ではなく、淡い紫の付け下げに
白地に金の刺繍がある帯を合わており、上品で美しかった。
だが、二人が交わした会話の中身は冷たいものだった。
「じいさんのわがままで、無理やり縁談を受けさせてしまったな。
俺のこと、覚えてるか?」
静はかすかに頷き、頭を下げた。
「幼い頃は色々お世話になりました。
このお話は、高瀬さんにとってご迷惑だったのではありませんか?」
「いや、丁度いいタイミングだった。この年になると周りが煩くて…。
見合い話は絶えないし、取引先は娘と結婚してくれって乗り込んでくるし…
とても困っていたんだ。君が受けてくれたおかげで問題が解決して助かったよ。」
ピクリと静の頬が動き、微笑みかけていた表情が消えた。
「…そうでしたか。私、あなたにとって良い防波堤になったんですね…」
「できれば、このまま…。」
竜平が言葉を続ける前に静が遮った。
「我が家の為に…祖父の借金の為にお力添えを頂いて申し訳ございません。
私が高瀬家の縁談の相手では、さぞご不快だったでしょう。
今日お会いしたかったのは、高瀬さんにお願いがあったからなんです。」