この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
静は竜平の言葉を聞いた時、彼に期待していた自分の甘さを断ち切った。
座ったまま深く一礼した後、キリっと顔を上げて彼を見つめた。
『これは借金返済の担保代わりだ。形だけの婚約にするのを忘れちゃダメ。』
揃えた指先だけが震えていたが、机を挟んで向かい合う竜平からは見えない。
「この婚約は…形だけにして下さい。私は小松原家でただ一人の相続人です。
遠からず、全てを相続する日がくるでしょう。
療養中の祖母を安心させるため、返済までの形式的な婚約という事で…。
借金は必ずお返ししますから、いずれ解消するものとさせて下さい。」
それは、間近に迫った身内の死を意味する悲しい事実だった。
「高瀬のおじ様からのお申し出はとてもありがたいのですが、
私たちはお互いのことをよく知りません。お付き合いすらしていないのに
いきなり婚約するのはおかしいと思うので…。」
静はひと息で言い切った。