この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
  

竜平は静の思いつめた様子に少し驚いた表情を見せたが、すぐに冷静な声で答えた。

「婚約はおかしいか…。確かに言われてみればその通りだ。
 じいさん同士が友人という関係しかないんだからな、今の(・・)俺たちは。」

竜平は改めて、静を見た。
今日もピンと背筋を伸ばして正座している。

愛らしい子供だったが、いつの間にか落ち着いた大人の女性になっている。

目の前の静は硬い表情のままで、竜平を警戒しているようだ。
幼い頃、ニコニコと話しかけてくれてた面影はない。とても残念な気がした。


「なら、お互いを知るところからもう一度始めてみないか?」

一気に砕けた口調で竜平が提案した。

「始める… とは?」

「仕事の事とか… どんな暮らしをしているかとか。
 お互いを知ることから始めよう。じいさんたちの手前、
 婚約は取り急ぎ結ぶが、俺たちは俺たちのやり方でゆっくり始めよう。」

それが、久しぶりに会った二人の会話だった。
小春日和の穏やかな日に、やっと静と前向きな話が出来たのに
その後すぐに恒一郎の急な訃報が入り、慌しく時間が過ぎてしまった。

二人の関係ゆっくり深めていく約束をしたものの、
何も出来ず中途半端なままだった。


そして、今、再び小松原邸で顔を合わせたのだ。



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