この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
『少しやつれたな…。無理もないか…。』
久しぶりに会えた目の前に座る静を見つめながら、竜平は話しかけた。
「年末で忙しいだろうに、時間を取ってもらってすまない。」
「いえ、こちらは喪中ですので…特に新年の準備もありませんし。
高瀬さんの方がお忙しいのではありませんか?」
「流石に仕事納めがすめば大丈夫だ。
今日は、この前の話の続きだがしたくて君に会いに来たんだ…。」
「はい。」
静は、祖父が亡くなったとたん、婚約解消の話かと身構えた。
「この前も伝えたが、この関係をやり直させてもらえないだろうか。」
「 やり直す…どういう意味でしょうか。」
「正式な婚約者として、君に高瀬竜平という人間を知って欲しいんだ。」
竜平の言葉は理解できなかった。『正式な』とはどういう事だろう。
「…正直、おっしゃることがよくわかりません。
この前は、あなたにとって都合のいい話だとおっしゃってましたよね。
私のような者が、あなたに相応しいとは思えませんし。」
「相応しくないと誰が決めたんだ?」
「身寄りもありませんし、祖母は病で入院していますし、借金も…。」
「どれも君のせいではないし、どうしようもない事ばかりだ。
俺は、俺という人間をちゃんと君に知ってもらいたい。
そして君自身に、結婚相手として俺を選んでもらいたいと思っている。」
『形だけの婚約』と決めつけていた静には信じられない提案だった。
「高瀬さん…。」
これは、本当の意味での交際の申し込みだろうか。