この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
季節は鬱陶しい梅雨になった。
竜平と再会し、婚約したのが去年の秋。その後祖父が亡くなって半年が過ぎた。
年が明けてからは竜平の言った通り、静は月に何回かマンションに通っている。
『小松原の屋敷から離れろ』
竜平は幼い頃の静を良く知っている。
彼女があの屋敷に呪縛されていることを、誰よりも理解していた。
引き取って育ててもらったから…。
祖父母の思い出があるから…。
華宵流の体面があるから…。
静が屋敷の維持に拘る理由はいくつもあったが、竜平は全て打ち砕いた。
屋敷や流派から離れて、静自身に人生を選ばせようとしてくれたのだ。
マンションには、定期的に高瀬家から家政婦が来ていた。
家政婦の織江が来る日に合わせ、静も訪ねる事にした。
その方が気がねなく竜平のマンションに行く事が出来た。
花を活けてみることもあれば、織江と料理を作ったりもする。
『自由になれる場所』
カフェ・BLUEとまた違った開放感を、静は感じていた。