この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
静は、竜平の住む高層マンションに通い始めた頃、
フローリングの床の心地よさとシステムキッチンの便利さに驚いた。
何もかも、小松原の純和風の屋敷とは違っている。
一面ガラス張りのリビングから都心を見下ろす風景は、
これまでの日常と全く違う世界を静に見せてくれた。
『別世界に来たみたい…』
いつの間にかシックな洋間に合う花を生けるセンスが磨かれた。
『幼い頃に日本に来てから、随分狭い世界にいたような気がする…。』
静はマンションに来ると、ロサンゼルスの風を感じるような気がした。
忘れようとしていた両親の思い出も蘇ってきた。
大きな声で笑っていた母。
絵を描く父の後ろ姿。
しょっちゅうハグしていた二人の姿。
静を二人してギュッと抱きしめ、『愛してる、静。』と言ってくれた。
何事もなく、幸せだったあの頃…。
『竜平さんと結婚したら、あの頃のような家族になれるだろうか。』
思わず、独りで赤くなってしまった。
『家族なんて…。何考えてるの私。』
竜平との結婚に自信が持てない静は、明るい未来を信じられなかった。
だが、竜平が言った『これから』という言葉の響きに、
いつの間にか夢を描いてしまったのだ。
彼の妻になる…。ウエディングドレス姿で彼の横に立つ日を想像してみると、
心の奥から、忘れていた柔らかな暖かい感情が蘇って来る。
『これが、幸せ?幸せな気持ち?』
静の心に生まれた愛は、彼女に手で活けられた花を通して溢れ出していた。