この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~


そうとは知らず、浩太はビールを煽りながら自慢げに昔話をし始めた。

「あの頃…小学生の頃から、静はきれいな子だって町内でも目立ってたよ。
 『小松原屋敷のおひいさま』って呼ばれてたんだ。
 俺ん家は近所だったから、祖母もお袋もあの家の事よく話してた…」

ビールのお代わりを注文して、浩太は続けた。

「あいつの死んだ父親は、古い家柄には未練もなくロスに行っちまったんだ。
 じいさんが教育者だから、自分の理想通り放任主義で育てたらしい。
 その結果、物凄く自立心旺盛になっちゃてさっさと親離れしたんだ。」
 
「へえ~、すごいな~。」

「親としては、子供が遠くへ行って淋しかったんだと思う。
 だから、ばあさまは結構厳しくあいつを育ててたよ。
 静も小さいなりに、ばあさまの期待に応えようとしたんじゃないか。
 どんどん真面目でお堅いタイプになっちゃったけど。」

「なんとなくわかるな~。潔癖っていうか、スレてないよね。
 静さんのことだから、彼氏も作らなかったでしょ。男知らなさそう…。」

「うるさい!そこには触れるな!」
「ゴメンゴメン。浩太にとって、静さんは特別なんだね~。」

「しょうがないだろ、ばあさまから認められた唯一の男友達なんだから。」

「それで、手が出せないって訳か…でも、それでいいの?
 浩太のおひいさま(・・・・・)のまんまでいいの?誰かに取られても…。」

浩太はもう、静の話はしたく無さそうだった。堂々巡りになってしまうのだ。

「黙って、飲めよ。」
「はーい。じゃ、浩太の驕りで、おかわり!」
「割り勘な。」


男二人は一晩中、浴びる程飲んだ。翌日は言わずとも両者使い物にならなかった。



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