この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
「竜平坊ちゃま、お帰りなさいませ。」
少し早く帰宅した竜平をマンションで織江が出迎えた。
「織江、その呼び方はよせ。」
ムッとした表情で竜平が織江にアタッシュケースを渡した。
「ついつい、おむつの頃からお世話しておりますとね、
今のお歳を忘れてしまいまして…フフ…申し訳ありません。」
口では謝りながら、少しも悪びれずに織江が答えた。
竜平も苦笑している。
「午前中に静様がお見えになって、紫陽花を活けて下さいましたよ。
冷蔵庫にお好きな物を作って入れてくださってますし。」
「そうか。だいぶ織江にも、この部屋にも慣れたようだな。」
織江から静の話を聞いて、竜平の頬が緩んだ。
「それはもう、家事はよくおできになるし、穏やかないいお嬢様です。
私にも花の生け方のコツを教えて下さるんですよ。」
うんうんと頷きながら竜平は着換え始めた。
「これまで奥様が勧められていた縁談と比べては申し訳ないんですが…
静様なら、いい奥様になられるでしょうに。
何故、正式に婚約者として発表なさらないんですか?」