この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
竜平の着替えを手伝いながら、織江の話は止まらない。
「静はその事で何か言ってたか?」
「いえ、静様は何も… ただ、奥様がちょっと…ご機嫌がお悪うございます。」
「母の事はほっとけ。」
「はあ…。」
竜平と両親は、子供の頃からお互いギクシャクした関係にある。
ただ、母親の方は適齢期の息子の結婚に干渉したい様だ。
長く高瀬家に勤める織江はよくわかっていた。
彼が高校時代不登校になった原因は、家庭にあったのかも知れない。
一方は無関心で片方は過干渉という両親に挟まれて、
次第に自分の存在が何なのか分からなくなっていったのだ。
ただその結果として、大学は第二志望校に進学する事になったのが…
竜平にとっての弱点になってしまった。
高瀬グループは学歴重視ではないが、高瀬家の一員である竜平より
学歴が上の社員が沢山いる。彼らより評価を高めるためには
仕事上で結果を残し、実績を積み上げていくしかないのだ。
彼は実力で、今のヨーロッパ担当部長という肩書を認めさせるしかない。