この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
「母に静の事や結婚の事で何を言われても、悪いが無視してくれ。」
「はい。承知しております。ですが、あまり時間をかけても…
よろしくないかと思いまして。」
「そうだな。」
「静様に何か不都合でもございますか?」
「まあな。小松原の松子ばあさまの体調もあるが、
静にはゆっくり時間をかけて、俺との結婚を考えて欲しいんだ。」
「と言いますのは?」
「あれは、10歳のころから自分を殺して生きてきた。」
「え!」
「驚かせてすまない。言葉は悪いんだが、俺のガキの頃と同じだ。
自分の居場所を探してるくせに、他人の言動に勝手に傷ついて…。
その傷を隠して周りに合わせるもんだから、
いつの間にかそれが当たり前になってしまうんだ。」
竜平は、表情を消している人形のような静を思い浮かべた。
「織江には、普通のお嬢様に見えますが…。」
「そうだろう。上手く隠してるからな。
俺はあいつの子供の頃を知っているからわかるんだ。
あいつは、いつもいつも気を張ってて強がってやがる。
本当は好き勝手に自由に過ごすのが大好きな、気ままなやつなのさ。」
良い機会だから、織江には自分の気持ちを話しておこうと竜平は考えた。