この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
祖父が旧友の孫を、どういう訳か洋平の結婚相手に押してきた。
『お前に、似合いだと思うから。』
その一言しか、祖父は言わなかった。
学生時代お世話になった恒一郎の借金を返済する為とはいえ、
祖父の提案に便乗する形で静との縁談を進めのには抵抗があった。
彼自身が昔から静に魅かれていたのに、金で縛り付ける様に思えたのだ。
仕事で認められてから、密かに静に会いに行くつもりにしていたのに、
計画が狂ってしまった。
後ろ盾のない静を高瀬家に迎えるためには
自分の力を両親や祖父に認めさせるしか無いと思っていたのだ。
誰にも彼女を譲りたくない一心で、これまで努力してきたのに…。
「俺は、静にはお互いを知る事からやり直したいと伝えているんだ。」
「お祖父さまが縁談を持ちかけた頃からですか?」
「いや、あいつと初めて会ったのは10年以上前だ。
あいつ、両親を亡くして日本に来た頃の孤独な子供時代にとらわれたままだ。
今の整いすぎた人形のような姿から開放してやりたい…。
俺は心の奥に眠ったままの本当の静を取り戻してやりたいと思っている。」
つい、竜平の言葉に力がこもる。
「少し時間がかかるかもしれないが…織江には静の力になってやって欲しい。
あいつには本心を話せる家族がいないんだ。」
「…坊ちゃま…。」
「その呼び方はやめろ。」
「愛ですねえ。」
「は?」
「それは、愛でございましょう。」