この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
執着
うだるような暑さの葉月を迎えたある日、マンションに突然の来客があった。
総合商社タカセの秘書室に勤務する、佐川綾子だ。
いきなりの訪れに、静と織江は顔を見合わせた。
丁度、フランスへ出張する準備中でマンションにいた竜平も驚いていた。
取り敢えず要件を織江が尋ねると、竜平に仕事上での急用だと言う。
ならばと書斎に籠っていた竜平の許可を得て、リビングルームに綾子を通した。
ソファーに座った綾子は、無遠慮に部屋中を見回している。
「佐川君、出掛ける時間が迫って急いでるんだが、何事だい?」
出張の準備を終えたスーツ姿の竜平が、書斎からリビングに顔を見せた。
「すみません、高瀬部長。山室本部長からこれをお届けする様に言われまして…。」
「山室本部長から…?」
綾子が封筒を取り出した。竜平は怪訝そうな表情だった。
「こちらをご確認下さい。パリへお持ちになりますか?」
「いや…。」
「では、こちらにサインか印鑑を…。」
書斎に戻ろうとする竜平の後を、綾子もついて行くかのように立ち上がった。
「君はここで待ってて。静、彼女にお茶を頼む。」
厳しく竜平に言われて、綾子はムッとした表情になった。
竜平に言われた通り、静は冷たい煎茶を綾子にすすめた。
「どうぞ…。」
「急にごめんなさいね。あなたが、小松原さんかしら?」
「はい。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。
小松原静でございます。よろしくお願いいたします。」
「会社で竜平さんの秘書をしている佐川綾子です。
公私ともに、竜平さんをお支え出来たらと思っていますの。」
佐川綾子は鮮やかなピンクのノースリーブのワンピースを着ていた。
リップは濃い紅だ。華やかな顔立ちと肉感的な姿態は静の対局とも言えそうだ。