この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
綾子は華やかな美人といえるだろう。手入れの行き届いた艶のある髪と
仕事に不釣り合いな指輪が光る手が、何不自由ない暮らしぶりを想像させた。
ただ、話し方は秘書にしては威圧的だった。
「私の父から、竜平さんの結婚が決まったらしいって聞いて驚いたわ。
あなたとの事は、正式に高瀬家から発表されていないんでしょ。
なのに…竜平さんのマンションに出入りしていたなんて…。」
「…申し訳ございません。」
「こんな事がマスコミに知られたら大変よ。まるで愛人みたい。」
見かねた織江が口を挟んだ。
「佐川様、静様は竜平さんのご希望でこちらにお越しいただいてますので…。」
「私は、高瀬コーポレーションや高瀬家の評判の事を言ってますの。」
「は、はい。」
「申し訳ないけど、調べさせてもらいました。」
「えっ?」
「あなた…家柄が良いそうだけど…内情は火の車。
おまけに、亡くなったお父さまは売れないデザイナーで、
華宵流とは無関係だったそうじゃない。何が華道のお家元の血筋ですか。」
一気にまくしたてられ、静には返す言葉もなかった。
言われたこと全てが、この縁談で静が気にしている事だったからだ。
多額の借金と身寄りの無い我が身。
綾子が、静をちらりと見て、紅の唇を歪めたのを織江は見ていた。
静はいつになく俯いたまま、頭を下げるしかなかった。