この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
後に残された静と織江は、お互いにどう声をかけようか迷った。
竜平はともかく、綾子の態度は気になっていた。
「静様…。お気になさいませんように…。」
「織江さん、私、ふつうのお勤めをした事がないんですが…。」
「はい…。」
「上司の家に来たり、出張の見送りって、社員の方がする事かしら?」
「はあ…。あまり聞いた事がございませんねえ…。」
「あの方、それ程竜平さんがお好きなのね…。」
羨ましいくらい、竜平への好意がむき出しだった。
少しでも彼の気を引こうとする姿勢は、彼女の想いの強さだろうか。
静の存在が余程邪魔なんだろう。彼女から憎しみすら感じたのだ。
それに比べて自分は…竜平に好意を伝えた事も無いし、
竜平からも好意を伝えられたことは無い。
『これからの事を考えよう』と竜平からは言われてはいるが
その言葉に、愛の告白が含まれているとは思えない。
『何て宙ぶらりんな関係なんだろう…。』
静の表情は、冷たく固まってしまった。
『ああ、この表情は…坊ちゃまが心配しておられた…。』
織江は、もう言葉がなかった。竜平がちゃんと好意を伝えないと
大切な物を彼は失いそうで、恐ろしくなってきた。