この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
『こんなものね。』
静はまだ蒸し暑い夏の午後、カフェ・BLUEに向かいながら呟いていた。
『いつだってそう。』
両親が亡くなった時。
祖母が病に倒れた時。
祖父の借金が発覚した時。
そして今日、竜平に好意を持っている女性が突然目の前に現れた。
竜平は当然、恋人がいてもおかしくない年齢だ。
彼に想いを寄せる女性だって大勢いる事だろう。
自分は、その中の一人?その中にすら入っていないかも…。
今度こそ、落ち着いた暮らしが出来る、今度こそ上手くいく。今度こそ…
そう願ったら、夢は破れていく。
夢を見てはいけない。望んではいけない。何も考えるな。
…泣いてはいけない…。
カフェ・BLUEに行くと、
最低な気分の日でも、マスターや常連のお客さんは笑顔で迎えてくれる。
「お帰り、静ちゃん。」
「久しぶり、静ちゃん。ラッキーだな、今日は店に来る日だったんだ。」
「こんにちは。すぐに支度してきます。」
自然に、静も笑顔になれる。
控え室で楽な洋服に着替えると、気分が少し良くなってきた。
最初は『形だけ』『借金返済の為』と心の中で決めていたのに、
いつの間にか、静は竜平に本気の恋をしていた。
『側にいたい』と強く願う程に。