この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
「お前の…初恋の君か。」
「えーっ、なにそれ!聞いたことないし。」
輔が行儀悪くテーブルに身を乗り出した。
「急な話だな。じいさまがらみか…。」
流石に浩太は、代理店勤務だけあって事情通だ。
名前しか告げていないが、高瀬竜平が何者なのか知っているのだろう。
静と浩太は、祖母同士が友人の近所に住む幼馴染だ。
もしかしたら、祖父の認知症も耳に入っているかもしれない。
静はゆっくりコーヒーを飲んだ。
「チョッと事情があって…。急な話でごめんなさい。」
祖父の借金の件は伏せて、静はゆっくりと話を続けた。
「私が婚約するのは、病気のお祖母さまのためなの。
何かあった時、私が独りになるからってお祖母さまが心配するから、
婚約は…しばらくの間だけ、カタチだけのものよ。」
「ばあさまの為?ホントにそれだけか?」
浩太がムスッとした顔をすると、輔がオロオロと静を見た。
突然の事態に、何て声を掛ければいいのか迷っている。