この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
その日は遅くなったので、前園浩太が静を送ってくれることになった。
大和は恋人の音羽と、まだデートを続けるらしい。お泊まりかもしれない。
帰る間際に、大和から自分も小松原邸に同居しようかと提案された。
彼にしてみれば、恒一郎が亡くなり松子も入院中なので、
静と白河だけが住む小松原邸がどうにも心配でたまらないらしい。
音羽も勧めてくれたのだが、静は遠慮したし何故か浩太からも却下された。
『セキュリティー会社と契約してるし、近所でも気をつけている。』
浩太は反対意見を必死で主張してきたのだ。
実際は、恋人がいる大和といえども、静の周りに男性を置きたくないだけだ。
竜平だけでも厄介なのに、これ以上、男性を静の側にいさせたくなかった。
静と浩太は駅からはのんびりと夜道を歩いていた。
もうすぐ屋敷に着くと言う時、浩太が声を掛けてきた。
「静、今日はお疲れさんだったな。」
「うん、色々あって…疲れちゃった…。」
珍しく静が弱気だ。浩太は心配になってきた。
「ばあさまの具合どうだ?」
「うん。大丈夫。お祖父さまが亡くなってから気落ちされてるけど、
近頃はよく思い出話をして下さるの。」
「へえ。昔の話か?」
「お二人の馴れ初めとかね。」
「うわ、聞くのが怖いわ。」
「酷いわ。大恋愛なのに…。当時、京都の大学生だったお祖父さまと出会って、
お二人は恋に落ちたそうなの。お祖母さまは御堂院の家を捨てて駆け落ち同然で
東京のお祖父さまのご実家にいらしたんですって。」
夜でも蝉時雨がうるさかったが、近くの児童公園にある小さな噴水の側で
何となく立ち話を始めてしまった。
静は張り詰めていた糸が切れて、ホッと一息ついた。
竜平のマンションに綾子が来たり、大和から自分らしく花を活けろと指摘されたり…。
長い一日だった。