この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
「あら、この怪我は、講師の方のせいじゃありません。
あなたが無理やり花鋏を握って切ったじゃあないですか。」
その時、音羽が必要以上に大きな声を出してくれた。
「私、隣の席で見てましたもの。
あなた、先生が離れたとたんに自分で花鋏を握ったでしょ。」
きっぱりと良く通る声で、静が負わせた怪我では無いと主張してくれた。
いきなり音羽に指摘された綾子は顔を真っ赤にしている。
「さ、お怪我の手当てをいたしましょうね。」
そこへ、大和が現れた。はんなりとした言葉と態度で綾子を宥めながら
会場から連れ出してくれたのだ。
気を取り直した静も、講師として不安な顔を見せる訳にいかない。
笑顔でそれからもアレンジなどを教えて回った。
きっちりと声を上げてくれた音羽には、感謝しか無かった。
それにしても、綾子が自分を傷つけても構わない程、静を憎み
竜平を手に入れたがっている事が恐ろしかった。
この事は、いずれ竜平の耳にも届くだろう…。
その時、彼は静のせいではないと、信じてくれるだろうか。