この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
竜平の母親、美保子が静に告げたのは、
暫く彼とは距離を取って欲しい、つまり会うなという申し出だった。
華宵流生け花の教養講座で綾子が仕出かした無礼は納得してくれたが、
友人の娘と会って、綾子を粗末に扱う事も出来ない。
そもそも、彼女を竜平の結婚相手に考えたのは美保子だ。
綾子の気持ちが収まるまで、佐川家を刺激したくないと言うのだ。
『貴女の事は、お義父様から聞いてはいましたが、竜平は何にも言わないから
本当に縁談があったなんて信じられなかったの。』
高瀬晴信は、家族に静との縁談を話していたが、
竜平は母親にすら、静との婚約を告げていなかったという事だ。
静は美保子の言葉に返事をする事が出来ないくらい驚いた。
『竜平の結婚は高瀬家にとっても大切な事だから、
我が家でもキチンと相談したいの。マスコミに今回の事を探られると煩いから
当分息子と会うのは遠慮して下さいね。』
サラリと告げて、美保子は東京支部から去っていった。
残された静は呆然と見送り、その足で竜平のマンションを訪ねて
織江に部屋の合鍵を返したのだった。