この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~


「あなたのお母さんには結局会っていないの。
 お父さんから突然、結婚したって手紙が届いたのよ。」

「明るくて、よく笑う人だって、手紙に書いてあったわ。」

静は松子の手を握り、頷く事しか出来なかった。

「息子夫婦に会いに行けば良かった… 。」

「私たち、息子に家を出て行かれたものだから…
 チョッと落ち込んでてね… あなたのお母さんに会うものかって、
 意地を張ってしまったの。」

両親の話を聞くのは嬉しくもあり、辛くもあった。

何日もかけて、力なく松子は話を続けた。

「私たちは…あなたに会えて嬉しかった…。
 あなたをキチンと育てて、息子夫婦に謝りたかった…。」

「厳しいおばあちゃんでごめんなさいね。」

「無口なおじいちゃんで、淋しかったね。」

「お祖母様… わたしこそ、色々至らないところばかりだったのに…。」

「…静… あなたはいい子よ。いい子。
 もっとたくさん話をしておけば良かったね…。」

「お祖母様…。まだ教えていただきたい事は山のようにありますのに。」


最期が近付くころ、祖母の話は静の行く末を心配する言葉だけになった。



「静、幸せになってね…。」

「高瀬さんと、二人で…幸せになってほしい…。」

祖母はただ、静の身を案じていた。

やがて、こんこんと眠り続けるようになった。





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