この恋の始まりはあの日から~何度すれ違っても、君を愛す~
その頃、何も知らない竜平は会社で慌しくしていた。
フランクフルト駐在の支社長が急病で、ある企業との契約に
支障が出そうになっていた。会社にとって大きな損失が出る。
「高瀬部長、ヨーロッパ総局から至急の連絡です。」
「回してくれ。」
秘書達も日常業務と役員間の連絡に追われていた。
普段通りなのは佐川綾子くらいなものだ。
結局、竜平の母の温情で、綾子は仕事を続けていた。
数日の間は指に包帯を巻いていて、仕事にならずかえって足手纏いだったが
本人はいたって普通に秘書室でいつも通り過ごしていた。
竜平も、とうとう綾子を無視する事に決めた。挨拶一つ返さない。
それでも会社に居続ける綾子の神経を彼は恐ろしいと思っていた。
外線電話が鳴った。